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    徳次は口のあたりをもごもごさせた。

    「はあ、はあ」

    「や、皆さんどうも遅くなりまして――」

    と、房一は練吉の顔を見て思ひ出したらしく、

    「あれから――あんたに鮒をとつて上げようと思つて、今さつきまで淵に附いとつたんだが、たつたこれつぽちきり獲れなくてね。上げるといふほどの物ぢやないけんど――」

    盛子は妊娠していた。

    「どうも、済んまへんでした」

    鬼倉は低い声で、はじめてぢつと相手を見た。が、それつきりだつた。動きもしない。徳次は何故ともなく一寸ひるんだ。が、又、

    盛子は時々半ば無意識に呟いた。

    房一はどこか鹿爪らしい恭順な面持で、控目にじつくり身体を押へるやうにして上るとうしろ向きになつた猫背の老医師の肩がひよいひよいとまるで爪さきで歩いているやうに彼を奥の方へ導いて行つた。

    「さうです。農林学校の先生だとかをしていられると聞きましたが」

    そこで自分がどんな取扱ひをうけるか、あたり前の医者としてか、それとも単に「芋の子」に過ぎなかつた高間道平の憎まれ息子としてか、房一は少からず興味を持つた。が、大体予測がつかないではなかつた。きつと、医者として認めたがらない気持がそのまゝ現れるだらう、と。

    「ふん。何でもありやせんよ。大方、腹でも痛かつたんだらう」

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