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    「馬子まごにも衣裳つて云ふから――」と云つたほどである。

    彼は自信を失つた。それにこの苦痛と動揺は明らさまに説明しにくい、説明したところで判つてもらへない種類のことだつた。房一はそれを盛子の妊娠の揚合にも経験した。

    「いゝや、まだ」

    「ね、お母あさん。これ、こんなに汚いでせう。もう少し……たいんですけど。……でせうねえ」

    「どうしたい、君はその恰好をまだ見せたい気かい」

    この時さう云ひながら座に入つて来た者があつた。それは今泉だつた。

    「大きいとも、こんなのを見たのは久し振りだ」

    と、ゆつくりはじめた。

    声をひそめて、富田が訊いた。

    「誰かと思つたよ」

    「なんだつて、脳溢血?――そいつあ大変だねえ」

    広い家の中では盛子一人だつた。もうとつくに羽織袴も居間に出して置いたし、履物も足袋も揃へた。帰りさへすればすぐにも出かけられるのだ。だが、足音も聞えはしない。盛子はさつきから何度も玄関に出てみたり、それから裏口から外の小路に出て河原の方をすかし見たりした。

    熱心になっていた「な」の字さんは多少失望したらしい顔をした。

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