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読経がはじまつた。皆話をやめてその方を向いて坐り直した。
遠くの方で誰かが呼んでいた。
「ねえ、高間さん。まあ、こつちへお寄んなさい」
盛子は、歯切れのいゝピツと語尾の跳ね上るやうな調子で、愛想笑ひをしながら小谷に訊いた。
「ふむ、毛嫌ひされて、孫ができてからやつとこさ婿養子になつたんだからね。――しかし、今ぢや正当な相続人だから、喜作さんに分けた分も自分の物だといふ理窟なんだね」
それは何となく不思議なことだつた。家にいたところで別に賑かに喋しやべり立てるわけでもなし、むしろ年中窮屈さうに不服ありげに無口で固い顔をしている茂子が、今この家にいないと知つただけで、こんなに伸び伸びし、自分がさう思ふだけでなく、そこらにある家具までが何となく気楽さうに見えるとは!
「やあ。先日はどうも」
「血圧は少し下つたしね」
「鮒?――それあ喰べるとも」
「さあ、くはしいことは判りませんね」
房一はふと自分に返つて訊いた。
感心したやうに呟くと、房一はくるりと向ふむきになつて歩き出した。
「いや」