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「いや、鳴つた。出張所の鐘がたしかに鳴つていた」
と、今やうやく気づいた盛子が叫び声をあげた。
最初、房一の頭の中にはペンキ塗りの清潔な外観を持つた医院が描かれていた。だが、この長たらしい築地にかこまれた家を一見するに及んで、その考へは棄てざるを得なかつた。今の大工の一言できまるまでに、何度玄関を外から眺めたことだらう。
練吉はそれなり黙つた。
そのとき、女房に命じて、温泉を加熱する装置を施してもいいか、ときかせると、
房一は苦が笑ひをした。
「ふむ、ふむ」
宿の者はこういっただけで、その以上の説明を加えなかった。伊助の報告もそれで終った。
不幸なことに房一の予測はあたつた。いや、それ以下とも云へた。
房一はその玄関土間に足を踏み入れて、
半シャツの男が進み出た。
「それあきまつてる、猟銃だもの」
その次は「角屋」の婆さんと言われている年寄っただるま茶屋の女が、古くからいたその「角屋」からとび出して一人で汁粉屋をはじめている家である。客の来ているのは見たことがない。婆さんはいつでも「滝屋」という別のだるま屋の囲爐裡の傍で「角屋」の悪口を言っては、硝子戸越しに街道を通る人に媚を送っている。